大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)213号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1(一) 当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲及び成立に争いのない甲第二号証の一、二によると、本願発明は、軟弱な地盤の改良を目的とするグラウトの注入工法に関するものであり、孔部の総開口面積が、内面の断面積よりも小さい注入管を使用し、この注入管に圧力をかけグラウトの放出圧力を注入対象地盤の地盤圧よりも高くして放出されるグラウトに方向性を与え、注入対象地盤に内在する抵抗圧の偏在の有無にかかわりなく一定の範囲内に均一にグラウトを分散させることができるようにしたものであることが認められ、本願発明において「グラウトに方向性を与える」とは、グラウトが注入管の外壁部に沿つて滞留することなく、注入管の孔の外方向に放出され、地盤の一定範囲内に均一に分散することを意味するものであることは当事者間に争いがない。

そして、本願発明におけるグラウトの放出圧については右特許請求の範囲において「グラウトの放出圧力を注入対象地盤の地盤抵抗圧より高くして放出させることによりグラウトに方向性を与える……」と記載されているだけで、圧力の具体的数値(絶対値)や地盤抵抗圧に対する割合等について特段の限定はない。なお、前掲甲第二号証の一によると、本願明細書において本願発明の好適な工法であるとして記載された実施例1の場合は、グラウトを沖積層の砂層である地盤内に注入したものであるが、この地盤注入時の強制圧力が一五kg/cm2であつたことが認められる。

(二) 一方、引用例には審決の理由の要点2の(2)に摘記のような構造を有する注入器(本願発明の「注入管」に相当するもの)及び圧力装置が記載されていることは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第二号証の三によると、引用例におけるけい化用溶液(本願発明における「グラウト」に相当するものであることは当事者間に争いがない。)を注入器に圧入する装置である六個の各ブランジヤポンプの能力(吐出量)は一個当り五l/分であり、最大注入圧力は一〇kg/cm2であるとの記載が認められる。

(三) そこで、引用例のものが注入器内に圧力をかけグラウト(溶液)に方向性を与えるものであるかどうかについて検討する。

グラウトを地盤に注入するには、グラウトの放出圧力を注入対象地盤の地盤抵抗圧よりも高くしなければグラウトが地盤中に浸透しないこと、引用例には注入器の管壁部に設けられた孔部の総開口面積と注入器の内面の断面積について一定範囲のもの、すなわち計算上それぞれが二三・六~三七六・八mm2と二八三・四~一一三三・五mm2のものが記載されていること及び注入器にかける圧力を一定とした場合に前記孔部の総開口面積の内面断面積に対する比が小さいほど注入器内の圧力が高くなり、従つてグラウトの放出圧力もこれに応じて高くなることはいずれも当事者間に争いがない。

しかして、引用例のものにおける圧力装置は前記認定のとおりのものであるから、このような圧力装置を用いてその出力を大きくした上、前記注入管の管壁部に設けられた孔部の総開口面積の注入器内面の断面積に対する比を小さいものに適宜選択すれば、注入器内の圧力は高まり、従つて溶液(グラウト)の放出圧力もこれに応じて高くなることは明らかである。そして、引用例に記載されている「最大注入圧一〇kg/cm2との値は、本願発明の実施例1に見られる前記「一五kg/cm2の値とさほどの差異がない。

そうだとすれば、引用例に記載の技術は原告が主張するように溶液(グラウト)の放出圧が地盤抵抗圧よりも若干は高いもののなるべく右抵抗圧に近い圧力で溶液を地盤に吐出させるものに限定されるものではなく、引用例には、圧力装置の出力及び注入器の管壁部に設けられた孔部の総開口面積と注入器の内面断面積の比の選択によつて溶液(グラウト)の放出圧力を右の場合よりも高くする技術についても開示されているものであることが認められる。

ところで、本願発明における「グラウトに方向性を与える」との意味が、前記のとおりグラウトが注入管の外壁部に沿つて滞留することなく、注入管の孔の外方向に放出され、地盤の一定範囲内に均一に分散することであつて、圧力の具体的数値(絶対値)や地盤抵抗圧に対する割合等について特段の限定がないものであることに徴すると、本願発明の注入管内に圧力をかけ、グラウトの放出圧力を高めると、これに応じてグラウトに方向性が与えられるものであることが認められる。従つて、「グラウトに方向性を与える」とはグラウトの放出圧力が高まることによつて当然に生ずる結果にほかならない。

そうしてみると、引用例のものにおいても、前記のとおりの方法により溶液(グラウト)の放出圧を地盤抵抗圧よりも相当高くすれば、それによつて放出される溶液に方向性が与えられることは明らかである。

以上のとおりであるから、引用例には「注入器内に圧力をかけ、この注入器から放出される溶液に方向性を与える技術」が記載されているものというべきであり、従つて審決が引用例に記載されていると認定した事項に誤りはない。

2 原告は、本件文献の引用例に続く記載部分(三二頁、甲第三号証の五)を引用して、審決の引用例誤認を主張する。成立に争いのない右甲第三号証の五によると、本件文献の原告引用部分には、原告が主張するとおりの記載があることが認められる。

しかし右の記載中「溶液の注入は、時間をかけて均等におこなうようにしなければならない。溶液の注入速度は第4表に従うべきである。」との部分は、溶液を地盤内に注入する場合には、その注入速度は最初から最後まで第4表に記載の値で一定に保ち、注入中に注入速度が変動しないようにすべきことを示したものであつて注入管内圧力や溶液(グラウト)の放出(注入)圧力についてふれたものではないから、この記載は引用例に関する前記認定を左右するものではない。

次に、右の記載に続く「溶液の注入圧は必要な注入速度に見合つたものでなければならない。しかして砂層のけい化の場合で一五atm、黄土およびクイツクサンドの場合で五atmをこえてはならない。」との記載によれば、溶液の放出(注入)圧力の強弱は注入速度の大小に相応するものであること、砂層のけい化の場合における一五atmの値は、一atm(気圧)が約一・〇一三kg/cm2であることから、本願発明の前記実施例1の場合(砂層地盤にグラウトを注入したもの)のグラウトの注入時の強制圧力一五kg/cm2とほぼ一致するものであることが認められる。

そうしてみると、甲第三号証の五の記載からも引用例のものは注入器内に本願発明と同程度の圧力を加え、同程度の放出圧力をもつて溶液を地盤に注入するものであるということができる。従つて右の記載もまた引用例に関する前記認定を左右するものではない。

3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、審決には違法の点はない。

三 よつて、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

管壁部にグラウトを放出させるための多数個の小径の孔部を設けた注入管を用いて、グラウトを土壌内の間隙に浸透させて地盤の改良を行なうストレーナ注入工法において、管壁部に設けられた前記孔部の総開口面積が注入管の内面の断面積よりも小さい注入管を使用し、前記注入管内に送入されるグラウトの吐出量を調整して注入管内圧力をかけ、前記孔部から地盤内に注入されるグラウトの放出圧力を注入対象地盤の地盤抵抗圧より高くして放出されるグラウトに方向性を与えることを特徴とする強制圧ストレーナ注入工法。

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